Cigale side.S
「寿命だな」
「……そうだね」
僕らの視線の先、靴の先にいるのは蝉だ。
今にも死にそうな、蝉。
青い空とむせ返る草の匂いの中で見つけた。何年も土の中で眠り、目覚めれば死ぬまでの時間は一瞬。
単純に、可哀想だと思った。まだ死んでいないけれど、もう死んでしまうから。
「スザク?」
ひっくり返った蝉に手を伸ばす。もがく姿が可哀想だったし、既に寿命を終えた他の蝉が、轢かれたり踏まれたりで粉々になっていたせいだ。
すると、さっきまでの弱々しさが嘘のような勢いで鳴いて、翅をばたつかせ地面を転がり始めた。
本当にびっくりしたんだ。あんな力が残っているとは思わなかったから。
蝉が大人しくなるまで待って近づいたとき、今度は暴れなかったのに安心した。
痛ましい姿を見るのが嫌だったのではなくて、地面を転げまわる蝉がちょっと怖かったから。
「可哀想だね」
そう言ってルルーシュを見れば、彼は僕の手の中の蝉を見ていた。
「そうかな?」
しばらく黙っていたルルーシュは、不意に楽しそうな顔になった。
「少なくとも、こいつは”まだ生きたい”とか”死にたく無い”とかそんなこと考えて無いと思うけど」
「え?」
ルルーシュの言葉に、僕は蝉を見る。
空は青い。太陽はギラギラしている。
「空しか見てない」
そんな蝉が怖かった。
鳥肌が立つほどに。
Cigale side.L
「寿命だな」
「……そうだね」
セミだ。
もうすぐ死ぬ。
夏にはよくある光景。仕方の無い法則。逆らえない摂理。
いやな、嫌な連想。
でも、まだ生きている。
「可哀想だね」
「そうかな?」
スザクの言葉に違和感を感じた。でも、その理由がわからない。
鳴いて鳴いて、地面に転がり死を待つ姿は哀れだ。人の手を逃れようと、飛べなのに飛ぼうとするのは無様だ。
でも、それは可哀想ではない気がする。そう、同情しようとは思わない。
なぜなら──
「少なくとも、こいつは”まだ生きたい”とか”死にたく無い”とかそんなこと考えて無いと思うけど」
「え?」
セミは空しか見ていない。僕も、スザクも、自分の生死すらどうでも良さそうに見える。
死ぬ瞬間まで、たった一つのものしか見ようとしない。それのことしか考えない。
それはとても潔くて、好ましい。
「空しか見てない」
そんな蝉を強いと思う。
こんなふうに生きたいと思うほど。
子供時代です〜。"執着"を凄いと思うか、怖いと思うかの違い。
スザクはあっさり死にそうで、ルルは泥に塗れても生きようとしそうだな、と思ってできました。
蝉は実体験(笑)