「寝惚けて妖精と会話するお前が嫌いだ」
<リライト>
「お〜、おは……」
とたとたと音がするので階段を見てみたら、目を擦りながら守久音がやってきた。
制服は着ているくせに、髪が大暴走している。順平は顔を顰めた。
一刻も早く学校に、否、寮から出て行く必要がある。
ギリギリに登校したい青春の牢獄よりも、この場は危険地帯になったのだ。
「……うん」
テレビのスイッチを切った瞬間、守久音は言った。
「違う。雨だよ」
順平に言ったのではない。それなら男子トイレのドアノブに向かって話しかけたりはしないだろう。
しかも、今日は晴れている。
「何言ってる?」
「……始まっちまった」
寝ぼけ眼でドアノブをガチャつかせる守久音に、順平は溜息をついた。それはこっちの台詞だ。
普段は何を"考えている"のか解らない守久音は、時々、何を"見ている"のか解らない守久音になる。
最初に見たときは全員で目を覚まさせて事なきを得たのだが、二回目に放っておいたらとんでもない事になった。三回目には冷えピタが必要になった。
「おい、目ぇ覚ませ」
「後30分」
「遅刻するわっ!離せよ」
「変態」
ノブから手を離さない守久音に注意しながら近づいた順平は、覚悟を決めた。冷えピタはちゃんと救急箱の中にある。
「離しなさいって!前の時みたいに壊れちまうだろうが」
尚もノブを動かす守久音の手に触った瞬間、
「成敗」
寝ぼけ眼は鋭い眼光に変化し、守久音は自分の頭を順平に向かって振った。
ごっ!
「がっ!!」
今日はビンタじゃなかった。
星を見ながら順平は撃沈した。
「……」
額を押さえながら、守久音も沈黙した。
10秒はそうしていただろう。
「…………痛い?」
額を押さえていた守久音が、訝しげに呟いた。
「……起きたかよ」
「順平?」
同じく額を擦っている順平は、疑問符を浮かべる守久音に涙目で告げた。
「寝惚けて妖精と会話するお前が嫌いだ」
順平は被害担当で。