リーダーの条件

「お前には無理だ」

 先輩である二人ではなく、彼より先にここにいたゆかりでもなく、どうして転校生の彼なのか。順平がした質問の答えは、たった一言。
 当然、順平はむっとした。それでは質問の答えになっていないし、自分の持っている漠然とした憧れや妬み、それに自尊心を叩かれたようなものだからだ。
 質問には言外の意味が含まれている。

 自分だっていいんじゃないか?

 そんな意味が。
「納得いかないって顔をしてるな」
「無理の意味がわかんねーっス」
 休日の寮内は静かだ。出かけているのか篭っているのか、エントランスのソファに座っているのは明彦だけだった。
 いつもは何人かがたむろしているからこんなこと聞いたりしない。かといって、ゆかりに聞けば『あんたって馬鹿ねー』で終わりだろう。もう一人の先輩に だって聞きづらい。
 同じ男で、しかも先輩。真田に聞くのが一番いい気がした。普通に考えれば、リーダーはこの人だろうと思うからだ。
 桐条先輩を女だからと侮る気は無いが、現場仕事は体力のある男が先頭に立つべき──と順平は思っている。
 真田が仕切りをするのなら、順平だってこんな不満は持ったりしなかったはずだ。
 目に見えて自分より強いし、自分より凄いと思う。
 その点、現リーダーは自分より強いのかが解らない。多分、そんなに変わりは無いはずだ。愛想と気配りなら、自分の方が上だと順平は思っている。

 なら、自分だっていいんじゃなか?皆を引っ張っていけるんじゃないか?

 茅岐守久音を見ているうちに、少しずつ順平はそう思うようになった。それが、今日ぽろっと口から出てきたのである。

「そうだな……」
 しばらく考えた後、真田は逆に質問してきた。
「リーダーの条件とは何だと思う?お前、答えられるか」
「何って……意見まとめて、何するか決めるヤツとか?あと、戦ってる時はみんなを守って、最初は真っ先に突っ込んでく強いヤツ……とかっスかね」
 自分の理想と身近なリーダーを参考に順平が言うと、真田は何故か笑った。
「それはヒーローの条件だな。俺が聞いてるは、リーダーの条件だ」
「同じでしょ?」
 子供向けの特撮番組は、赤がリーダーだ。そして一番のヒーロー。だが、真田は首を横に振った。
「リーダーの条件は、強さでも優しさでもない。残酷さだと俺は思う」
「残酷って……そんな、そりゃないっしょ」
 自分の中の条件との違いに、順平は驚いた。そんなリーダーについてくる人間がいるわけない。
「最善を目指して、最適を選ぶのがリーダーの役目だ。助けられないのなら、あいつは仲間を助けないだろう。少なくとも、率先して助けたりはしない。頭が無 くなったら、手足があっても仕方が無いからな。死ぬのは全員が死んだ後だ。お前に出来るか?俺には無理だ」
「……」
「覚えとけ、ヒーローとリーダーは違うんだ。あいつはヒーローじゃない」
 言葉も無くソファに座る順平の背後に向けて、近づいてきた影に真田は言った。
「できるか?」
 いつかくるだろう選択を。

「簡単」

いつものように淡々と、守久音は答えた。







うちのは淡々主人公ですぜ。ゲーム中の我が基本スタイルですが、仲間には嫌われますよね。
特に順平はいいヤツだからさ。ヒーローの素質を持ったヤツだからさ。