教科書を垂直に立てて、視界を遮ることが肝心だ。
席は隅、後ろよりは前のほうが実は気づかれない。
ノートを広げて、教科書を入れておく場所にソレを入れておけば準備は完了。
消音設定とバイブの解除は常識だ。
教科書を入れてある場所に手を伸ばし、そこから完全に取り出さないよう注意してディスプレイを覗く。
『今夜はお暇?』
八千穂の携帯に届いたメールは葉佩からのものだった。携帯よりPC派の彼のメールはいつも短い。
だが、冷たいと感じたことは一度も無かった。送信者の人柄のせいだろう。
今、隣の席に葉佩はいない。
教室の隅にあるもう一つの空席の主と、屋上辺りで日向ぼっこでもしているのだろう。
『おヒマだよ。どこにいるの?』
授業中の八千穂も、手早く短い返事をした。女子高生の早打ちの速度は素晴らしく、片手操作で30秒もかからない。
しばらく待っていると、光る携帯がメールの受信を伝えてくれる。
『屋上。八時に取手と墓地で待ってるので、よろしく』
『オッケー。今日は皆守クン不参加なんだ?』
墓地に行くたびに必ずいるわけではないが、三人一緒に赴く日も含めて彼に文句を言われている葉佩を見る日は多い。
八千穂が呼ばれるときは必ず三人行動になるのだが、取手と皆守は葉佩と二人きりで遺跡に潜ることもあるらしい。
彼らが自分の知らない遺跡の内部の話をしているとき、呼んでくれなかった悔しさや大事にされている嬉しさが彼女の心の中にある。
そして、葉佩や自分と普通に会話をする皆守と取手を見て、よかったなぁと思うのだ。
自分と葉佩につられるのだろう。まだまだ少ないけれど、二人は笑顔を見せるようになった。
それを見て、自分と葉佩はまた笑顔になる。
それはとても素敵なことだ。
まさかそんな日が来るとは思っていなかったので、普通に考えても素敵なことがもっともっと素敵に思える。
その中心が転校生の葉佩九龍。
<宝探し屋>なんて不思議な肩書きを持った、自分より小さな彼。
『葉佩クン、お昼は一緒に食べようねッ!』
『うん。皆守君は寝すぎだと思う』
メールを送った直後に、前のメールの答えが返ってきた。
このあと四人でマミーズ行くんですよ。
取手が仲間になったばっかりだから、八千穂の質問攻撃に取手はたじた
じ。
まだ苗字呼び。