彼がソレを見つけたのは本当に偶然だった。
夕方に起きて、飯でも食おうとマミーズへ。
寮の出入口で見知った顔を見かけると彼の頭には二択が浮上。

無視か一瞥。

話しかけるなんて選択肢、考えつきもしない。チラ見するのだって面倒くさい。

よし、無視でいこう。

歩調を変えることも無く起き抜けの頭でぼんやりそう決めた彼は、アロマを取り出しながらその脇を抜けようとした。
と、

「センパイを知りませんか?」

向こうから話しかけてきた。
ゆっくり顔を向ければ、何時にも増して眉間に皺が寄っている。

何かあったな。

彼はそう思った。詳しいことは知りたくも無いが、良くないことだけは確かだ。
センパイとやらに関することで、この後輩がするのはキャンキャン吠えるかホイホイ付いてくるか泣く泣く連れて来られるかの三パターンだ。
今回は吠えるらしい。
出入口で張っているのだから、相当やらかしてしまったのだろう。あのセンパイは。

「知らないな・・・・・・あ?」

たとえ玄関で張っていても、窓から入ってくることがあるから侮れない。それを踏まえた上での発言だろうが、彼は遭遇していなかった。

そう、何処にいるかなんてしらなかったのだ。

今の今まで。

寮の植込みからこちらを伺う顔を発見してしまうまで。

「どうしたんすか?」
「何でもない。お前、今日は九龍に何されたんだ?」
「ほっといて下さい!アンタに関係ないでしょうが!!」

彼の呟きの原因に目をやろうとした後輩に咄嗟に話しかけて、彼は親友を救ってしまった。

めんどくせェ・・・・。

さり気なく植込みを見れば、期待を籠めた目で此方を見つめる馬鹿一人。

追っ払ってくれ!帰れない!向こうへゴー!

誰にでもできる、嫌な以心伝心。
要求に応えるポーズを少しでもとっておかないと、三日間ほど纏わりつかれることは間違いない。
アロマを吸ってため息を隠し、彼は後輩へと向き直った。