「・・・・・・・・・」
授業を終えた皆守は、携帯を取り出して電話をした。
コール四回で回線を切断。不機嫌ゲージは心配混じりの怒りゲージに変わる。構成比は0.5対9.5くらい。つまり怒っている。
授業の名を借りた拷問に一人で耐えたストレス。
空席と自分の間を行き来する視線へのストレス。
それから、

”来い”って言ったのに来なかった・・・・・・。

日々忠告や助言や希望を無視され続ける彼だ。大したことではない。だが、塵は積もると山になるのだ。表面張力で保たれていた何かが、ポロッ と零れてしまっ たらしい。
アロマパイプをガチッと噛んで、葉佩を探しに教室を出て行った。
「皆守クン!」
背後の慌てた声だって無視だ。自分の声が無視されたのに、人の声を聞いてやる義理なんか無い。
皆守甲太郎、御立腹。


屋上、石研、音楽室、美術室・・・・虱潰しに上から探して、最後に残ったのは保健室。壊れろとばかりに扉を開ける。
「ここを何処だと思っている?しかも、今は授業中のはずだが?」
クラスメイトには恐怖である皆守の怒りも、保健室の主の態度を変えることはできなかった。冷えた目線で皆守を睨みつける。
「アイツは何処だ?」
しかし、皆守とて引く気はない。質問しながら室内に視線を泳がせると、ベッドがカーテンで隠されている。
ビンゴ。
皆守は笑みを浮かべた。
「ここにいるのは病人だけさ。お前のためのベッドはない」
「別にいいぜ?コイツのを貰うからな!オイ、九ちゃ・・・」
カーテンを勢いよく払った皆守から、当初の勢いが急速に消えていく。
葉佩は眠っていた。
顔は赤く、呼吸も健やかとは言えない状態で。
「・・・・だから言っただろう?ここにいるのは病人だけだ、と。授業を受けなくてはならないから、薬だけ処方してくれればそれでいいと言わ れても、見過ご せる状態ではない。連れて帰る気があるなら、ついでに薬も持って行ってくれ」
「・・・・・・解った」
「皆守」
「何だよ?」
「あまり駄々をこねて、葉佩を困らせるなよ?」
「はァ!?」
思わず振り返った皆守は、ニヤニヤ笑う保健医の顔にぶち当たった。
「『早く来いって言われたので、早く行かなければならないのです』・・・大慌てて飛び込んできたぞ」


翌日、全快した葉佩の隣に咳を連発する皆守がいた。



皆守は基本的にお母さんだから、きっと看病してくれたんだと思います。__________________