ドライ
それが皆守甲太郎。
そんな彼だが、最近の様子はそうとも言えない。
葉佩九龍。
やってきた転校生は破壊の天才だった。
「ついて来るなって行ってるだろうが!」
「Disagreeable!」
葉佩の言葉の意味は分からないが、首を横に振る様で理解できる。
廊下に響く声で怒鳴られようがついていくのだから、その根性は大したものだ。
しかも、怒鳴る相手は皆守である。
怒ると怖そう。
怒ると怖い。
想像と現実が合致していても、実際に起こるとやはりビビる。
嫌なことには関わらない、常に気だるいオーラを発しているのが普通な彼。
そんな姿、見たことがない。
滅多にお目にかかれない分、ショックは大きい。
現に、怒鳴られたわけでもない生徒が声に驚いて肩を竦ませ、声の主を見て
ダブルショックを受けている。
煩わしい視線に舌打ちして、皆守は速度を上げた。
「飲めって!」
「却下!」
早歩きで相手を振り切ろうとする皆守だが、葉佩は小走りでそれを防ぐ。
「苦くないから!」
「アホか!」
ブンブン振る葉佩の手には飴玉のようなものがある。
色はダーク。そして、成分は企業秘密。
企業秘密って何だ!?
皆守の不信感は一瞬で最高潮に達した。
風邪を移した責任を葉佩は葉佩なりに感じたらしく、今朝、皆守の部屋を訪問
したときからしきりとこの正体不明の丸薬を勧めてくる。
鼻につく匂いから、漢方なのだろうと察しはついたが皆守は拒否した。
短い付き合いだが、葉佩やりそうなことは予想できる。
+αがあることを疑ってかかるべきだ・・・・。
皆守の本能はそう告げていた。
製造元では企業秘密だったかもしれないが、今は正体不明になっているはず
。
絶対に口にしてはいけない。
そのためにも、この100%良心からきているらしい迷惑なお勧めを撃退しなけれ
ば。
相手は宝探し屋、体力が尽きることは期待できない。
睨む以上のことをしても効果無し。
ならば・・・・・
「ぶへっ!」
突然立ち止まった皆守の背に、葉佩は顔をぶつけた。
隙を突いて、皆守は手の中の丸薬を奪う。
そして、窓を開けて投げた。
すぐに景色に溶けて、もうどこへ落ちたか分からない。
「よし」
「・・・・・・・あ〜」
葉佩の落胆した声に振り返り、ぎょっとする。
眉が八の字で口が山になっていた。
相当な落ち込みようだ。
「きゅ、九ちゃん?」
「・・・・・・・・・・・さらば、皆守」
「お、おい」
今では呼ばれなくなった苗字と、下を向いたまま廊下を戻り始める葉佩に皆守
は動揺した。
慌てて並んで歩こうとするが、葉佩は歩調を速めてそれを阻止する。
仕方なく後ろをついていく皆守が何度も声をかけるが、全て黙殺。
「おい・・・・」
「・・・・・・・・」
「悪かった、謝る・・・・」
「ついてくんな」
先ほどとは逆の構図に、やはり目撃者たちは驚いた。
いつも思っているんですが・・・・彼はどこら辺がドライなんですか?
始めからかなり面倒見良かったですよね(笑)
壊れたのは、一般生徒から見た甲太郎のイメージです。