「えー、屋上じゃないの?・・・・ちゃんと謝ったほうがいいよ」

「え・・・・音楽室には来ていないよ?その様子だと、噂は本当みたいだね」

「見ての通りここにはいない。他の場所を探すんだな」



「聞いたわよォ。ダーリン泣かしたんですって?げはァッ!!」

見たくない、聞きたくない。

ただでさえそう思っている相手からイラつく話題を出された場合、これはもう蹴るしかないだろう。
さっきより酷くなっている病状もそれを手伝っているのだが、罪悪感など微塵も感じない。

自分は正しい・・・・・きっと。

皆守はそう思い、廊下に撃沈した朱堂を無視して次の場所へと急いだ。
飴ポイ投げ事件からこっち、葉佩の姿が見えない。
少し時間を置こうと目を離したのが致命的だった。
次の授業に姿を見せず、放課後の現在に至る。
しかも、皆守と葉佩の間にあった出来事が何故か噂になって流れている。
確かに珍しいネタだ。
だからって当事者には面白くもなんともない。
葉佩の行きそうな場所で出会う人間に、なんとなく責めるような目で見られるのだから尚更。
真実から見れば被害者は皆守で、正当防衛を行使したに過ぎない。
だが、状況だけ見れば立場は逆転だ。

『風邪を心配した葉佩が親切で勧めた飴玉を、非情にも窓からポイ投げ』

葉佩の外見が、更に周囲を葉佩派にしていく。
被害者の皆守でさえ、下がった頭の旋毛を見ると悪いことをしたような気になるのだから周りが一気に傾くのも無理はない。
そこまで考えて、皆守ははたと足を止めた。

必要も義務もないのに、むしろ頭を下げられるべきなのに葉佩を探している自分・・・・実は一番の葉佩派なんじゃないだろうか?

結論が出た瞬間に、その結論を記憶のゴミ箱に突っ込んだ。
アロマを吸って思考停止。

とりあえず探そう。

皆守は再び歩き出した。




その頃、葉佩は温室で体育座りをしていた。
「絶対効果あるんだよ・・・・」
「ええ、そうでしょうね」
ゆっくりと頷き、落ち着いた声で慰めるのは白岐だ。
「あなたが彼のことを思っているのはよく解る・・・・そして、それはちゃんと伝わっている」
疑いの眼差しを向けられた白岐は、微かに微笑んだ。
「今頃あなたを探しているわ。もうすぐここへやってくるでしょう」
「どうかなぁ・・・・」
「あなたは自分のしたことを悪い事だとは思っていない。けれど、彼の気持ちも解っている。いつも通り、すぐに仲直りできるわ」
今回は葉佩が予想外の態度を示したためややこしいことになったが、この程度のいざこざは二人にとって珍しいことではない。
「まぁ、だよね・・・・。俺が上手く接してやらないといけないよねぇ」
「ふふ、そうね」
「アイツってさ、俺が来るまで本当に友達がいなかったのではないですか?」
「多分そうだと思うわ・・・・私も同じようなものだったけれど」
「うん。そうだと思った。二人とも、人付き合いうまくないもんね。似てる」
「似て、いるかしら?」
疑問を感じている白岐に、葉佩は笑う。
「友達になりたいって近づいてくる人にどう接したらいいのか解んなくなって、とっさに拒絶しちゃうところがそっくり」
皆守の場合は葉佩。白岐の場合は八千穂。近づいてくる側の諦めの悪さと強引さも、確かに似ているのかもしれない。
「拒絶したことを後悔しても、今度はどう謝ったら良いのか解らないでしょ?そういう子には、俺とか八千穂みたいなタイプがぴったりなんですよ〜?めげない から」
「・・・・・どうもありがとう」
「うんうん、白岐さんはちゃんとお礼が言えるなんて偉いねぇ。それに比べて・・・・・」
腕を組んで首を上下に動かした後、両手で口を囲んで簡易メガホンを作り出した。
葉佩の見ている方向には温室の入口があって、そこに人影が見える。
「ゴメンの一つも言えない人は困ったもんだよなー!」
直後、けたたましい音を立てて温室のドアが砕け散った。
メガホンを作ったままの姿で葉佩は硬直。
「そうだなよァ・・・・謝ることのできないヤツには、きっちり解らせる必要があるよなァ?」
ガラスの破片を踏みしめながら近づいてくる皆守の顔には、張り付いた笑顔があった。
「こ、こ甲ちゃん・・・・風邪が酷くなってるね?声が掠れちゃってるよ?」
自分を見下ろす存在に、葉佩は引き攣った顔で応える。
「あぁ、誰かのせいで不当な扱いを受けてな・・・・悪いな、白岐」
「気にしなくてもいいわ・・・・」
温室のドアに八つ当たりしたかった皆守の気持ちが解らないでもないので、白岐は謝罪を受け入れた。
「それは大変。早く帰ってベッドへgoすると良いですよ。ガラスの片づけは俺がやっとくから・・・・」
「と・う・ぜ・んだろうが、このクサレハンターが!」
万感の思いを籠めて、皆守は葉佩の頭を掴みシェイクした。
「おぉうっ!頭揺さぶるの止めるアルヨ!ワタシ、ヅラ取れてしまうネ!この若さでカミングアウトはあんまりヨ!!」

おかしい。いつものパターンと違う。

揺さぶられる頭で葉佩は思った。

俺の筋書きでは、ここで皆守が謝って俺も謝って万事解決のはずなのに!

発熱による皆守のテンションの変化に気づけなかったのが、葉佩の敗因だった。





御題にふさわしく、迷惑を巻き散らかせたと思います(満足)