最近、王子は珍しいくらいに御機嫌だ。
それに伴い、カイルの機嫌は微妙に逆進している。
微妙すぎて自分でも気づいていないのだが、今も口が3になっている。
視界の右端からやってくる、ここ最近目撃する異様な五人組が原因だった。
一番前が、フェリドの推薦により女王騎士としてやってきたゲオルグ。
その後ろが、ゲオルグの歩幅に合わせて駆け足気味の王子と、その王子について回るリオン。
そして、かなり後ろから王子を追いかけるリムスレーアとそんな姫様を見つめるけれど手は貸さないミアキス。

先頭の男が加わるだけで、微笑ましい光景が一転するのは何故だろう。

この五人組を見た全員が、何故かなんて解っているけど疑問を感じずにはいられなかった。
危なっかしい足取りで前の三人を追いかける幼児の護衛が、カイルを見つけて近寄ってきた。

「迫力あるアヒルの親子でしょ〜?」
「・・・姫様についてなくていいんですか?」
「大丈夫です。転んじゃっても・・・」

ミアキスがそう言った瞬間、懸命に兄を追いかけていたリムスレーアは転んだ。
そして、そのまま泣き出した。
その声を聞きつけた兄は、どんどん先に行ってしまう人物と妹を見比べて、すぐに踵を返した。

「リム、リム」

うつ伏せの妹を抱き起こし、服の裾で涙を拭いてやる。
すかさずリオンが布を差し出した。

「・・・・ね?王子は姫様が可愛くって仕方ないんですぅ。リオンちゃんは王子の役に立ちたくて仕方ないって感じですし〜。
可愛いですよね〜、三人とも」
「ですねー」
「あら?カイル殿は御機嫌斜めですか?」
「べっつにー」

斜め下に眼を逸らし、さらに口を尖らせて別にも何もあったものではない。

「そうですかぁ?羨ましいって顔、してますよ?」

腰を曲げてカイルの顔を覗きこむミアキスには、その気持ちが手に取る様に解った。
顔に出さないだけで、自分も同じ気持ちだからだ。
最近の王子は、ゲオルグにべったりである。
正確には、相手にしてくれないゲオルグにべったりしようとしている。
あまり人に執着しない王子にしては珍しい、王子を懐かせようとしている人間から見れば恨めしい事態だった。
今では身内同然のミアキスも、本当に仲良くなったのはリムスレーア付きが決まってからだし、
名前を覚えてもらうにはそれから更に時間がかかった。
新参者のカイルに至っては、名前も怪しい。いや、むしろ駄目だろう。
まだ一回も呼ばれていないのだから、きっと覚えていないに違いない。
それなのに、だ。

フェリドが突然連れてきた身元不明の無愛想な男はたった一回名乗っただけで名前を覚えてもらえた上に速攻で懐かれるとはどういうことなのだ。
こんちくしょうめ。

そんな、自分にに湧き起った思いをカイルも抱いているのだろうとミアキスは勝手に決めた。
思い出したせいで少しむかっとしたので、腹いせにカイルをからかうのも勝手に決めた。

「王子は黒髪がお好きなのかもしれませんねぇ」

返事はしないが、リオンを見るあたりちょっと気になるのだろう。リオンも、比較的早く打ち解けてもらえた方だ。

「あまりお喋りをなさる方でもないですから、寡黙な人のほうが付き合いやすいのかも・・・・」

自分をすっかり棚に上げて、カイルの口の軽さを突っつく。

「あ、女王騎士なのもポイントかもしれませんねぇ」

子供・血縁を除外すると、王子が懐いているのは女王騎士くらいだ。
ミアキスもゲオルグも女王騎士だ。
でも、カイルは見習いだ。

「・・・・ミアキス殿」
「はい?」
「オレのこと嫌いですか?」
「とぉんでもない。好きな人の上から二十番以内には入ってますよ?」

カイルの顔は複雑だ。ミアキスの言葉が痛いせいもあるし、その好意はなんだか微妙。

「ちぇー、オレって誰からも好かれてないんだなー。ショック」

卓に突っ伏しいじけるカイルの頭を、ミアキスはよしよしと撫でてあげた。

「王子の笑顔はとっても高いんですよぉ。いじけてないで頑張りましょうね?・・・・じゃ、私そろそろ失礼します〜」

妹が泣き止んだらしく、兄は再びゲオルグを追いかけるつもりのようだ。
ならば、妹はそれについて行く。ミアキスもついて行かねばならない。
三人に近づきながら、ミアキスは王子の仕草に小首を傾げた。
何だろう。
二、三歩足を踏み出して、何かを考えるようにこちらを見ている。
今度は妹とリオンを交互に見つめて

両手を二人に差し出した。

妹は飛び跳ねながら、リオンはそんな妹を見ておずおずと王子の手を握り返した。
そして、ちらっとこちらを見て

嬉しそうに微笑んで三人一緒に駆け出した。

「まあ、かわいい」

口に手を当てて呟くミアキスの後ろでは、まだカイルがいじけている。






王子はちゃんと覚えているのですよ。名前は覚えてないけど(笑)
ミアキスは見習時代ってあったのかな〜?5当初の女王騎士って、アレニアもハザークも最初から女王騎士だった気がするのですが。
見習って、力量を見込まれた人がお試しとして与えられる称号な気がします。
家柄良かったらそのまま騎士就任っぽい。ミアキスとゲオルグは推薦だから最初から騎士なイメージある。