「優しくしてくれるときは、優しくされたいときなんだよ」
持っている箸をリンファに向けながら、カイルはさも当然といった様
子だ。
「えー、それって、ただ単にあんたが王子様に触りたいだけなんじゃ
ないのぉ?」
すかさず突っ込みを入れたのは、リンファの隣にいるルウ。こちらは、
持っているコップをカイルに突き出している。
「ちーがー」
「わ〜な〜い〜、ですよねぇ。いつも王子を探して歩き回ってるの、
ちゃ〜んと知ってるんですよぉ」
間延びした声でカイルの言葉を遮ったのはミアキス。
四人は現在お食事中で、カイルは三人に追及を受けていた。
「見つけた途端に尻尾振って『王子〜、王子〜』って・・・リオンちゃ
ん、よく我慢してるわよね」
「王子様もねー」
「抱きついて、背中撫で回すの止めてくださぁ〜い」
「こらこら、ミアキス殿。オレは撫で回してなんかないでしょー。それ
は自分でしょー」
冤罪で命を散らせたくないカイルは、挙手しながら笑顔でとんでもな
いことを言うミアキスに慌てて訂正を入れた。リオンは、冗談の通じな
い真面目ないい子である。だからこそ怖いのだ。全力で殺される。
「だいたい、王子様っていっつもやさしーじゃん。あれが普通なんだ
から、優しくされたいも何もないんじゃないのぉ? 甘え過ぎ、ゼッタイ
に甘え過ぎ」
「あんたの理屈でいったら、王子様はいつも優しくされたいことになっ
ちゃうじゃない。ルウの言うように、あんたは甘え過ぎよ。女王騎士なのに、
どうしてそんなんなのよ」
言葉の弾丸に晒され押され気味に見えたカイルだったが、実はそう
でもなかった。それどころか、優越感さえ抱いていた。
寄って行って抱きつく。
傍目にはいつもと同じなのだろう。だが、問題なのは抱きついた後
の王子の反応だ。
背中に手を伸ばして軽く叩いてくれば、それは労い。
声を立てて笑い、頬を寄せてくるのは機嫌がいい証拠。
疲れていれば動作はゆっくり、機嫌が悪いと少し邪険だ。
抱きついた時にこっちの目を見て力を抜いたら、その時はぎゅうぎゅう
に抱き締める。
自分を装うのが得意な王子の気持ちを知りたいならば、抱きつくの
が一番いい。甘えてみるのが正解なのだ。
会話に加わらないで、美味しそうにデザートを頬張っているミアキス
もそれを知っている。あえて何も言わないのは、カイルと同じ気持ちだ
からだろう。
「それはヒミツー」
物でも人でも、好きなものの特別なポイントって秘密にしときたいですよね。
自分だけのー、って感じ。でも知らしめたいとも思う。
そして、違わないと思います。カイル殿は王子に触りたい思います(笑)