「“女王”騎士とは言いますけど、現状での主は王子ですし……」

「はぁ」

軍師様はおっしゃった。

「ま、頑張ってみて下さい」








「カイル様にも困りましたね」
カイル探して三千里。二十歩目にして、すでにリオンの心にはやるせなさ
が満ちている。

節操無しのカイルの態度を改めさせよ

一部の女性と多数の男からの涙ながらの嘆願が軍師に届いたらしい。男の
涙は当人への嫉妬からで、女の涙は声をかけられた同性への嫉妬らしかっ
た。
色恋沙汰なんか自分で何とかして下さい主義のメルセス卿だが、この集団
におけるカイルの立場とあまりの嘆願の声の多さに、とても面倒臭そうに王
子を呼び寄せた。

放し飼いは結構ですけど、先々で餌をつまみ食いして苦情がきてるんです。
お宅んとこの大型犬、躾はどうなってんの?

簡単にまとめると、こんなことを王子は聞かされたのである。
リオンは必要ないと言ったが、一応頭を下げた。
悪いことしたら謝る。王子は子供の頃にそう教えられた。悪事を働いたリム
の代わりに謝ること数知れず、代返は得意分野だ。
御免で済んだら戦争は起こりません。軍師は鉄の女だった。王子の背中に
など惑わされない。
かくして、王子とリオンの遺跡探索が始まった。
「今日は何処にいるのかなぁ…」
「さぁ…私には見当もつきません。困りましたね」
「困ったね」
顔を見合わせた二人は、早くも暗礁に乗り上げ気味だ。
「何揃ってしけたツラしてんだ、よっと」
「痛いっ」
「王子!」
そこにロイが通りかかった。二人に近寄り王子の三つ編みを引っ張る。
リオンがすかさずその手を叩くまでが、この三人の挨拶だ。
「相変わらず痛ぇな……で、何かあったのか?」
「カイル様を探しているんです。どこかで見かけませんでしたか?それと、
何度も…」
「何度も言いますけど王子の髪で遊ぶのは止めて下さい!無礼ですよ!…だ
ろ?耳に蛸ができるくらい聞いたから、覚えちまったよ」
「それならどうしてっ…あっと、違う。そうじゃなくて…」
「金髪のデカいのならあっちに行ったのを見た。何か探してるみたいにきょ
ろきょろしながら歩いてたぜ」
聞かれたロイは船着場を指で示しながら言った。王子を見ながら、いたず
ら小僧の顔になっている。
しかし、そこから何も読みとれない王子は不思議に思っていた。船着場に
女の人はいない。いるのはスバルだけだ。
スバルだけ。
スバル。
そこで王子は閃いた。
「スバルさんがカイル殿の想い人なのかな?」
「はぁっ!?」
「あっ!」
ロイは吃驚、リオンは納得の感嘆符。
ロイを置き去りに、二人は明後日の方向へ駆け抜ける。
「確かに、あそこにいる女性はスバルさんだけです」
「仲間だし、スバルさんは元気で可愛い人だものね」
「本命はスバルさんで決まりですね!」
気付けば素行調査が本命探しになっている。
「これでカイル様が他の女の人に言い寄ることもなくなって一安心ですね
「仮にそんなことになっても、スバルさんが許したりしないだろうし」
肩の荷が下りたとばかりに踵を返す二人に、時間を止めていたロイが動き
だした。
「でもスバルが本命かどうかなんて解んねーだろ?」
もし本気でそう思っているのなら、かなりの大穴狙いだ。
あの男は元気なのもはねっ返りも守備範囲なのだろうが、あくまで守備範囲。
好みは大人しいのだろうとロイは思う。三つ編みを引っ張られても「痛い」とし
か言わなかったり、鼻摘まみの刑に処せられても「ひゃめへ」としか言わない
ような十五、六の銀髪が好みのはずだ。
「いくら何でも、カイル殿はそこまで不誠実ではないよ」
ついでに報われない恋が好き。
「そうですよ」
二人脳内会議に誤解という文字は無い。あるのは思い込み。
「そいつはどうかなぁ……」

「何か知ってるんですか?」
「まぁちょっと……見に行ってみようぜ」
暇つぶし発見。ロイの顔にはそう書いてある。
上機嫌で歩いていくロイについていった二人は、スバルと会話しているカイ
ルを見つけた。
「あれ?首を振ってるね」
しかし、話しかけられたスバルは首を横移動させている。
頷いたカイルは手を振って、こちらに向かって歩いてきた。
ロイが慌てて隠れる。とても真剣な彼に、なんとなく二人も隠れた。
カイルは立っていたお嬢さんたちと短い言葉を交わし、外周から塔の一階
へ消えていった。
リオンは王子に話しかけるが、
「違うみたいですね」
「だから言ったろ?」
答えたのはロイだった。
予想が外れた二人は、自慢気なロイに任せることにした。
自分たちより出来る人に見えたので。
その後、ビッキーに話しかけては首を横移動させルセリナに話しかけては
首を横移動させ宿屋から出てきては首を横移動したりしていた。最後のは
きっと間違えて入ってしまったのだろう。マリノ以外、あそこには男しかい
い。そしてマリノの眼中にはベルクートしかいない。

それにしても、
「見事に女の人ばっかりですね」
カイルが話掛ける九割が女性なのを目で見てしまうと、リオンとしては何と
もいやーな気持ちである。
「でも、僕もあんな風…」
「王子はいいんです。王子ですから」
一片の曇りもないリオンの即答に、ロイもいやーな気持ちになった。
「俺はお前が嫌いだ…」
「!!」
クリティカル・ヒット。突然の告白に、王子は体育座りになる自分を抑えき
れない。そんな王子をリオンが放って置けるわけも無く、心の底から告白し
た。王子には私がついてます。

「大丈夫ですよ!私は王子のこと大好きですから!」
「俺は大っ嫌いだ…」
「…………」
リオン必死励ましは王子を激しく落ち込ませた。
王子戦闘不能により、本日は解散。




主人の後を追っかける大型犬を尾行する主人+2名の話。
カイルの態度への不満はそのうち無くなると思う。全員が気づくから。気づいた女性は応援してくれると思うよ。美しいカップルは眼福だものね。
踏まれても踏まれても諦めないその姿に、男たちは尊敬混じりの同情を寄せるといいよ。だからカイルは人気者(笑)