話しかければいつも通りで、妹の我儘にもいつも通りで、リオンにこてんぱにのされてもいつも通りだ。
父親の乱暴なスキンシップに眼を白黒させるのも、母親との僅かな時間を大切にしているのも変わらない。

だがおかしい。

カイルは胸騒ぎを覚える。
鬱屈した思いを抱えているだろう。泣きたいことだって絶対にあるはずだ。
それでも、それを見せないのがカイルの知っている王子だ。
それは誰に聞いても同じだろう。
どうしても我慢できない時は、怒るより涙を流す。
泣かないために他人とは距離を置く。
そういう人だ。
八年間も見てきた自分の分析に間違いは無いと、カイルは断言できる。
そして何となく思っていた。
王子はこのまま大人になるだろうと。
背丈は伸びても気性は変わらず。母親の美貌は存分に受継いだが存在感は妹に譲って生まれてきた。
実際、隣に佇んで準備を見守る今の王子はいつも通り、自分の思っている通りに成長するだろうと思える。

でも違う。

カイルは漠然と感じていた。
なかなか覚醒できない朝のように、ゆっくりと眼を覚まそうとしている。
僅か過ぎて本人さえ気がついていないだろうが、カイルには解ってしまった。
闘神祭から帰ってきた女王と騎士長から話を聞かされたとき、王子ははっきり頷いたのだ。穏便に済まない可能性が高いのに、悲しそうな顔はしなかった。
その時から、カイルは違和感を感じていたのだ。
自分の想像では、王子は争いに心を痛めながらも受け入れるのだ。眼を伏せて聞きたくも無い話を聞いているはずだった。
いつもより力を入れてリオンと手合わせをしている光景に自分の眼を疑ったし。
体調を崩すからと何度訴えても聞き入れてもらえなかった読書による夜更かしをしなくなったと言われて、熱を測ったりもした。
殆ど変化が無いからこそ、少しの差異が酷く目に付く。
側にいれば気づかないまま受け入れられたのだろうが、カイルは留守番組だった。彼にとってはいきなり変わってしまったのだ。
だから気づけたのだろう。
だが、どう変わったのかが解らない。
違和感と胸騒ぎの元はこれだ。
それを解消したいがために、最近のカイルは王子の側を離れなかった。
どうしてと聞かれれば、愛してるからですと答えて笑われた。
それでほっとする。
いつも通りだと安心できた。

「そろそろですね」

しかし変化は止まらない。

「負けるわけにはいきません」

今日は眼だ。
冷たい氷のような眼をしている。

「嫌じゃないですか?」
「嫌です・・・でも」

話しかければ一瞬で冷たさは消え、苦しそうに眉を寄せた。
そのうち皆が気づくだろう。
王子はもう解っているかもしれない。

「僕はあの人が嫌いです」
「同感です」






王子は自分の汚いところから、カイルは変わっていく王子から
背を向けてはいけません。