むりにいうことをきかせようとしてはいけません




リオンのことは『リオン』。
リムスレーアは『リム』。
ミアキスは『ミアキス殿』だから、『カイル殿』でもまぁいい。
ゲオルグが『ゲオルグ』なのは・・・・・・我慢しよう。仕方が無い、我慢する。我慢、我慢。

「あ、ロイ!」

でもこれはどうなのよ?
今日も忠犬よろしく王子に纏わりつくカイルは思った。
王族とは思えないほど礼儀正しく人に接するこの王子は、滅多に名前を呼び捨てたりしない。数少ない例外は、昔から王子の側にいた三人だけ・・・・・だっ た。
出会いが出会いだからなのか、ロイには”君”がつかなかった。
あまつ、今日のように声をかける。

「王子に近づかないで下さい」
「何でだよ?呼んだのは王子さんだぜ?」
「また髪を引っ張ろうとしているのが見え見えです!」

同じく王子に付き従うリオンが、素早くロイと王子の間に割って入る。
これはすでにパターンらしく、肝心の王子を横に二人の舌戦はヒートアップしていく。そして、それを止めるのが

「リオン」

の一声だ。

「ですが・・・」
「呼び止めたのは僕」
「そうそう」

他のどんな手段より、リオンにはこれが効く。不満たっぷり睨みこってりで後ろに下がった。その対象に入らないように、カイルは大人しくしていた。

「で?」
「・・・で?」

鸚鵡返しの王子に、ロイは頭をがしがしと掻きながらしかめっ面になった。王子のテンポはロイには遅すぎるのだ。加えて、生まれてから覚えてきた話法が違 う。”お上品”で鼻につくのだろうとカイルは思った。

「ワタクシに何ぞ御用がおありでしょうか?」
「・・・・特に、用事は無いんだけど・・・」
「あ、そ。んじゃ俺もう行くわ」
「ロイ君!失礼ですよっ!!」

不遜な態度に怒るリオンが煩かったのだろう、背を向け歩き出していた身体をくるりと回し胸に手を当てて一礼して見せる。

「御前を失礼致します・・・これでいいだろ?」

正に慇懃無礼だった。リオンの怒りに油を注ぐ。
刀を握りながら追ってくるリオンを目にし、慌てて走り去っていくロイを見つめる王子の顔は曇っていた。

「・・・・・・・・今日も怒らせてしまいました」
「ロイ君も難しい年頃ですからねー。仲良くなりたいんですか?」
「嫌われてはいないと思うんです。呼べば答えてくれるから。でも、苛々させてしまうみたいで・・・」

項垂れる王子を見たカイルは、とっくに見えなくなったロイに不満たらたらだ。

「友達になりたいと思っているのですけど・・・・」

あの贅沢者め。
こっちは追いかけても捕まえられないのに、追いかけてもらう幸運を解っていない。
そこまで考えて気がついた。
そういえば、ゲオルグもそんな感じだと。

押すより引いたほうがいいのか?

「・・・・・おうじー」
「はい?」
「王子は尽くすのが好きですかー?」
「は?」
「尽くされるのが好きですかー?」
「え・・・・・・・・待ってくださいね。考えてみます・・・」

後日、カイルはリオンに正座の刑を言い渡された。
引いてみたカイルに、王子がめちゃめちゃ落ち込んだからだ。
側にいられないのは辛いし、見かねたロイが王子を励まして二人の友情は深まってしまった。

無理は良くない。

説教を聞きながら、カイルは今回それを学んだ。






笑顔を向けられるのが嬉しいとので、人のために何かしたいのがうちのセレスト王子殿下だす。
好かれたいのです。