「・・・・今、開けます」
蹲っていたセレストは、扉を叩く音で顔を上げた。軽く二回。この叩き方で、
向こうにいるのが誰かはなんとなく解った。
立ち上がり、一度だけ深呼吸をして扉を押す。
「あの・・・」
案の定、珍しく歯切れの悪いカイルが立っていた。
気遣われているのが解っているセレストは、安心させようと微笑んだ。しかし、
カイルは更に何ともいえない顔をして頭を掻いた。
「カイル殿?」
首を傾げるセレストを前に、カイルは悩んだ。眉間に皺を作り、鼻の頭や頬を
触り、上を向いたりつま先を見たりして自分の考えが正しいかを考えた。
「・・・・・・僕なら大丈夫です」
カイルの奇行を黙って見つめていたセレストだったが、いつまで待っても始ま
らない話に見当をつけて口を開いた。カイルの動きがぴたりと止まったので、間
違いなさそうだと続ける。
「心配してくれて有難う御座います。僕は大丈夫です」
「本当ですか?」
探るように問いかけるカイルに、王子は再度微笑み返した。
「本当です」
「大丈夫じゃなくても、嫌いになったりしませんよ?」
「え?」
聞き取れなかったらしいセレストに、カイルはゆっくり言い直した。
「笑ってなくても、がっかりなんかしませんよ」
ロイに喋りながら、カイルの頭にある仮説が閃いたのだ。
「笑顔の王子はそりゃあ素敵ですけどねー。笑顔の王子が好きなんじゃなくて、
王子が好きなんですよ。泣いて怒っても誰も王子を嫌いになったりしないし、ここ
からいなくなったりしませんから・・・・・・・あれー?もっとこう、号泣くらいの勢いで
抱きついてきてくれてもいいですよー?」
「・・・・・・」
王子は俯いてカイルの服を掴んだ。
関節が白くなるほど強く。
褒め言葉って、優しい束縛かもしれないですよね〜。褒められると嬉しいから、自分を作っちゃうときは結構あると思います。
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