「も
う!またそんな遠くに投げるなんて。ヒドイよ皆守クン!」
「キャッチボールってのはそう言うもんだろ?よっ
と・・・・」
「だー!捕れないって!!」
「九チャン頑張れ!」
三人はキャッチボールをしている。
正確に言うと、皆守と葉佩がキャッチボールをしているの
を八千穂が見
ている。
皆守の投げたボールは、葉佩のグローブにキャッチされる
こと無く地面
とキスをして跳ねた。
それを見た葉佩が、走るのを止めて皆守を睨む。
「・・・・・・」
「お前が言い出したんだぞ?キャッチボール。無理やりつ
き合わされた
俺が、どうして睨まれなきゃならないんだ?」
「ビギナーには優しくしてくれてもいいと思うんだよ
ね・・・・」
「そうだよね。でも意外だなー。やったことなくても、す
ぐできるよう
になりそうなのに」
皆守のもとに寄ってきた二人は、お互いを見て言う。
「遺跡に潜ってる時なんか、もっと凄いことできるのに
ね」
「投げるのはいいんだよ。でも・・・・」
「キャッチが苦手?」
「ぴんぽ〜ん」
そこで声を立てて笑い、それを見て脱力するのが皆守だ。
「さ、ばっちこ〜い!」
「こーい」
「まだやるのか!?」
再び離れていこうとする葉佩に、皆守はストップを要求す
る。
辺りはすでに夕闇だ。夜が来るまで十分とかからないだろ
う。
無気力高校生がつきあってやれるのはここまでだ。
何が何でもここまでだ。
その決意を察した葉佩は、心底残念そうに皆守を見つめ
た。
「・・・・・・・・・・ラストチャンス」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・解った」
お互いに最大限の譲歩をしあって、なんとか友情は保たれ
た。
さて、どうしよう。
皆守は考えた。
向うで待ち構えている葉佩。
最後に優しくしてやるべきか。
それとも、最後まで厳しくするか。
それとも・・・・・・
「何考えてるの?」
「別に・・・・離れてろ」
滅多に動かない皆守の表情が少しだけ変化する。
それに気づいた八千穂は嫌な予感がした。
面白がっている顔だ。
絶対になにか思いついたのだ。
それでも渋々離れた八千穂を確認して、皆守は投げた。
思いっきり踏み込んで。
思いっきり全力で。
最後は最高に意地悪く。
「げっ!」
「ひど!」
無理やりこんなものにつき合わされたのだ、これくらいし
ても許される
だろう。
微かに笑った皆守は、次の瞬間信じられない音を聞いた。
何かに何かが当たる音。
葉佩がキャッチに成功した音。
皆守と八千穂が呆然と葉佩を見れば、葉
佩も呆けた顔
で二人を見てい
た。
「と、捕れた?」
「と、捕れた・・・・・・・・捕れた!」
「マジかよ・・・・」
「やったー!!」
「きゃー!おめでとー!!」
小躍りする葉佩に駆け寄って、八千穂も一緒に跳ねてい
る。
ゆっくり近づいた皆守は、葉佩のグローブの中を覗いて
ボールがちゃん
と入っているのを確認した。
「今までのは捕れなくて、どうして今のが捕れるんだ
よ・・・・」
「さぁ・・・・・あ、甲が本気だったからとか?」
「どういうこと?」
「相手が本気じゃないと、俺も本気になれないってこ
と・・・・・・・・・かもしれないってこと」
「なるほど!遺跡の時だってそうだもんね・・・・九チャ
ンって誠実な
んだねッ!!」
「おい、八千穂。今の話・・・・どう考えると”誠実”っ
て言葉に繋が
るんだ?」
敢えて言うなら犬だ。
葉佩九龍は遊び事において犬属性なのだ。
犬は、フリスビーを思いっきり投げたほうが嬉しがる。
皆守には想像もつかない思考回路を保有
している八千
穂は、それを少し
披露してくれた。
「真剣な相手にはちゃんと応えてくれるんだから、誠実で
しょ?」
褒められた葉佩は調子に乗った。
「そうなんだよねー。俺って、相手が本気だったら全力で
応えちゃうん
だよねー」
「あはは!調子乗りすぎだよー」
「とっても乗っちゃうぜ!困ったことがあったら、遠慮な
く助けを求め
においでなさい!!」
八千穂の拍手を受け、無意味に胸を張る葉佩は皆守を見上
げる。
「どんな手段を使っても、必ず絶対助けてあげるよ?」
某グループの某曲を聴いていたら浮かんだ
話です。
これは是非歌詞を読んでいただきたい。