スキンシップがすこしはげしいです



 胸倉を掴み、噛み付くように怒鳴るロイとは対照的に、セレストは目
を逸らさず黙っている。殴りかかりそうなロイの態度に、リオンが黙っ
ているわけがない。
 だが、いくら待ってもリオンの制止は入らないのだ。

 リオンは刺された。



 敵となった女王騎士の足止め役を、ロイもカイルも上手くやった。合
流した時に手を上げて叩き合うほど、二人は信じていた。これでお終
いだと。女王奪還の成功を疑いもせず、根城に帰ってセレストを待って
いたのだ。
 しかし、セレストが抱いて帰ったのは兄にしがみつく妹ではなく辛う
じて生きているリオンだった。
 出迎えのために集まり、リオンを見て驚いている皆に何も言わず、セ
レストは医務室に駆け込んだ。
「刺された」
 リオンを寝かせながら、セレストは淡々とシルヴァに告げた。ただな
らぬ様子に後を追いかけた仲間達が、それを聞いて息を呑む。
「黎明の紋章が傷を塞いだけれど、目を・・・・覚まさない」
 眉一つ動かさないセレストの目を見つめ、シルヴァが頷く。
「患者の容態を診る。出て行きなさい」
「お願い、します・・・・・」
 シルヴァに頭を下げてから医務室を出たセレストは、扉を静かに閉め
て皆に向き直った。
 リオンが自分を庇って刺された事。不測の事態により作戦が失敗に
終わった事。不測の事態とはこの場にいない叔母であること。
 言葉に詰まる事も無く、セレストは皆に説明をした。それを何とか受
け入れた皆が解散し、リオンを案じてここに留まろうと決めた者だけに
なった時、ロイが爆発したのだ。
 リオンが一命を取り留めなければ、二人の不仲は決定的なものにな
っていただろう。
 だが、リオンは持ちこたえた。ロイも、セレストと入れ替わりにリオン
の様子を確認してそれでも落ち着いたのだろう。
「・・・・悪かった」
 素っ気無く謝り、セレストは気にしなくていいと緩く首を振って答えた。


「・・・・・う」
 疲れたから部屋で休むと医務室を後にしたセレストは、自室の扉を
閉めた途端に座り込んでしまった。今になって身体が震える。込み上
げてくる何かを抑えるように口を両手で塞ごうとして、止めた。そして囁
く。
「良かった・・・・リオン」
 視界に入った右手を、左手できつく握る。
 こんなものが無ければ、今も家族と一緒に居られただろうか。
 こんなものが無ければ、この争いは起らなかっただろうか。
 強大な力を持った、ろくでもない代物だ。
 無くなってしまえばいいとセレストは思う。少し前まで思っていた。
 けれど、これが無ければリオンは助からなかった。
 べっとりと張り付く生暖かい血。泣けない自分。悲しい顔でいなくなった人。
 セレストは右手を抱え込んで蹲り、色々なものを、堪えた。



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続く感じで御座います。うちの王子はテンパると自分の中でぐるぐるしそうです。そして無表情になる。