医務室から背を向けて歩き出すセレストに、カイルはどう接するべきか困っていた。
 側にいるか、一人にさせたほうがいいのか。
 迷っているうちにセレストは階段を上っていってしまい、追いかけるタイミングを逃した。
 どちらがいいのか解らないくせに、見えなくなれば追いかけたくなる。行けば行ったで、
余計なお世話かもしれないと思うのだろう。
 溜息をついて、カイルは考えないように努力した。
 守ったリオンも怒ったロイも、泣かないセレストの気持ちも解るからだ。
「ロイ君」
「何だよ?」
「王子をあんまり嫌わないでよー?」
「・・・・・・・・さっき謝ったろうが」
 医務室の前から動かないので表情は見えないが、ロイがまだ納得していないのは明白
だった。
「リオン、御免。僕がもっとしっかりしていれば、こんなことにはならなかったのに・・・」
 カイルが王子の口調を真似た途端、ロイは振り向いて睨みつけた。
「そう言って泣くと思ってたんだ?」
「・・・いつも王子、王子って、リオンの頭の中にはアイツしかいないんだぞ?いつもアイツの
後ろをついて歩いて、アイツが笑えばそれが幸せで、アイツも幼馴染みたいなもんだって言っ
てた・・・」
 それなのに、リオンが死にそうになっても冷静そのもの。
 ロイが気に食わない原因はカイルの予想通りらしい。
「軍主だからか? 王子だからなのかよ? そんなの気にするほどのもんなのかよっ!?」
 床を蹴って憤るロイに階段を上るときの王子を思い出して、カイルはやっぱり追いかけてお
けば良かったと後悔した。
「王子が泣かないのは・・・そんな大げさな理由じゃないよ」
 太陽宮でカイルが見かける王子は、いつも微笑んでいる子供だった。相手をしてくれる女
官に、愛してくれる家族。陰でとやかく言う貴族たちの声を聞いたって、リオンが側にいるよ
うになってからは微笑むようになった。
「泣くのが下手なだけだと思うよ。愛されてたから、いつも笑ってたし」
「つまり?」
「リオンちゃんは王子が笑ってないと幸せじゃないって、ロイ君が自分で言ったでしょ?そー
ゆーこと。王子は辛くても泣かないよ。さすがにテンパちゃって無表情だったけど・・・あー、
オレ、王子のところ行くから。ロイ君はどうする?」
 急に話を切り上げてそわそわしだしたカイルに怪訝な顔をしながらも、ロイは決まりきった答
えを返した。
「ここにいる。・・・何かあったら、呼びに行く」
 少しだけ険のとれた声に、カイルはほっとして頷いた。



続く

当サイトの恋する女王騎士(笑)ですから、三人の気持ちが全部解ると思う。
王子、意外と涙したことは少ない気がします。だから涙の経験値は低い。